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ステレオジャックによる逆相クロストークの測定

某ポータブルDACの件で、ステレオプラグ・ジャックのGNDの接触抵抗によって左右ユニットの共通インピーダンスが発生、逆相のクロストークとなることで、再生音に異常が発生するという問題がありました。
逆相のクロストークによる問題は、不自然な音の広がりや、センターに定位するキックドラムなど低音が鈍るといった具合で聴感上に現れます。

同じ現象は3線式のヘッドホンケーブルのGND線の抵抗によって起こったり、そもそも3極ステレオプラグを用いることが問題ということで近年はバランスヘッドホンアンプなどというものが出てきています。

バランス方式までいかなくとも、なるべく音の問題が出ないようにするためにはプラグやジャックの選定が予想以上に重要であることがわかりました。

ついては、いくつかの製品を用いて逆相クロストークがどれだけ発生するかを測定してみることにしました。
この問題について測定をした前例はあまりないと思います。というのも接触抵抗というのは必ず同じ値が出るわけではなく個体差や経年変化、プラグの汚れなどによって変動することもあり評価が難しいのです。
今回の測定値はなるべく正しく比較するように心がけてはいますが、参考情報ということでお願いします。


■測定回路
測定回路
オーディオアナライザの出力をLchのみ接続。プラグとジャックを経由してLchの信号レベルを確認。これとあわせて信号を印加していないRchの信号レベルを確認。Lchの信号レベルに対してdB換算して、クロストーク値として測定します。
GNDの共通インピーダンスによる電圧降下、すなわちクロストークは負荷インピーダンスが低いほど大きくなります。今回はアナライザの出力インピーダンスが5Ωであるため、5Ωで統一しました。
なお、測定側は1kHzのBPFを挿入してノイズ成分を排除。クロストーク成分のみを抽出しています。


実際の測定状況は以下の通り

直結
まずはプラグ・ジャックを用いずハンダで直結。この値を基準とします。

約-90dBという値は、Lchの50mVの信号レベルに対して3万分の1くらいの信号がRchに漏れているということになります。これがアンバランス伝送の限界と考えていいと思われます。


まず測定するのはオヤイデ電気のφ3.5mmプラグP-3.5GとジャックJ-3.5SR。
オヤイデジャック


この組み合わせを選んだのは、ジャックがバネ構造になっていて接触抵抗が低く高性能であることが予想されたためです。新品で1組用意しました。バネ構造のジャックは単体では見かけませんが、変換プラグとしてはいくつか存在します。
バネジャック
左: JVCの変換プラグAP-113A、右: オヤイデJ-3.5SR


■オヤイデ電気 φ3.5mmプラグP-3.5GとジャックJ-3.5SR(新品)
オヤイデ

電圧降下は誤差レベルだけど、チャンネルセパレーションが17dB低下した。いやこれは優秀だと思うけど、アンバランスのステレオ伝送でコネクタが1箇所増えるとこれだけ影響が出るってことだ。


続いてはマル信無線電機のMP-061MとMJ-076Mの組み合わせ。千石電商で売っていて安くて見た目も良いのでよく使っている。
マル信プラグジャック

■マル信無線電機のφ3.5mm MP-061MとMJ-076M(新品)
マル信35

レベル低下は特に認められないが、セパレーションは26dB悪化。漏れは1/1000未満なので僅かではあるものの、プラグ・ジャックを経由したことによるクロストークの悪化が認められた。


■マル信無線電機のφ3.5mmジャック MJ-073H(新品) プラグはMP-061M
マル信ジャック
構造はほとんど同じであるが、金メッキのせいか若干特性が良いようだ。


■秋月で売っている基板用のφ3.5mmジャック ST-005-G(新品) プラグはMP-061M
秋月基板用
さほど差のない、まあまあな値


■秋月で売っている基板用のφ3.5mmジャック AJ-1780(新品) プラグはMP-061M
秋月ジャック
これは予想以上になかなか良い値。しかしtwitterでは3個使って全部ガリ気味みたいな報告も。
※USB DACについているものとは若干寸法が違うため交換用としては適さない。


■某USB DACについていた問題のφ3.5mmジャック プラグはMP-061M
nanoiDSDジャック
他のジャックに比べて10dB以上も特性が悪い、これは問題があるといえるだろう。


DACのジャックの交換用として同タイプのものから検討


■テイシン電機 J-116(E)C
テイシン
測定した値こそ悪くないものの、差し込んだ時の感触が若干緩い印象があるのと、ガリがある印象。触れると測定値がふらついて悪化したり、音が途切れることがあった。
残念ながら寸法が微妙に違い、交換用としては不適だ。


■マル信無線電機 MJ-352W-C
マル信35_2
こちらも同様、測定値(最良値)としては良いものの、この形状のジャックに共通していえるのか、やはりガリっぽい印象があった。しかしテイシン電機のものよりは差し込んだ時の固さがあって良い。寸法的にも問題がないので、USB DACについてはとりあえずこのジャックに置き換えることにした。



さて続いてはφ6.3mmプラグ・ジャックについても調べていきます。


φ6.3mmのジャックといえばCLIFFが最強だと思ってたのですが、結果をみると…


■ジャック CLIFF S-2(新品) プラグ CANARE F16(中古)
CLIFF.jpg
プラグが太くてガッツリ挿さるので、一番良い特性が出るのかと思いきや、φ3.5mmと特に変わり映えのない普通な特性。なんだかガッカリ。


もしやプラグのせいかとも思い、別のプラグでもチェック。

■ジャック CLIFF S-2(新品) プラグ NEUTRIK NP3RX(中古)
CLIFF_Neutrik.jpg
うーん、特に変わらない感じ。


ということで今度は別のジャックに。
■ジャック NEUTRIK NJ3FC6-BAG(中古) プラグCANARE F16(中古)
Neutrik.jpg

抜け防止のロックが付いているので嵌合もしっかりしていると思いきや、なんだか微妙な値。


うーん困ったぞ、まともなφ6.3mmジャックが無いぞということで、試しにマル信無線電機のMJ-187LPを購入してチェックすることに。

■ジャック マル信無線電機 MJ-187LP(新品) プラグCANARE F16(中古)
マル信63

意外や意外、秋月電子で90円と格安なのに、-70dB超えのすばらしい特性。ずっと思い込みで信頼して使っていたCLIFFは何だったのか。まあ聴感での異常を感じたことはないとはいえ、国内メーカーの安価な品に負けていたとは…。



さて、番外編としてiPod touchのジャックはどうなのかという質問がありましたので、測定環境は異なりますが、チェックをしてみました。
このジャックはバネではなく、小さなボールを押し付けるような形で接点が構成されています。差し込んだ感触はなかなか良いのですが…。


■iPod touch 5th 無負荷時
iPod無負荷

■iPod touch 5th 32Ω負荷時
iPod負荷32

というわけで、こちらも聴感上の問題を感じたことはないものの、負荷がぶら下がった場合はそれなりのクロストークが生じているようです。



といった具合で、普段はなかなか気にすることもないプラグ・ジャックの接触抵抗ですが、物によってこれだけ差があるということがわかりました。これまで実使用で問題を感じたのはUSB DACでの一件のみですが、なるべくなら優秀なパーツを使っておきたいところ。皆様のパーツ選定の参考になれば幸いです。
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No title

 fixer 様 いつも、ご指導ありがとうございます。
当ブログ、わざわざの現品入手と測定に頭が下がります。

ステレオプラグ・ジャックは新品でも共通インピーダンスの問題が
大きいことを認識しました。
しかしながら、小型機器に大きなキャノンは無理な話と思います。しかも
販売されているバランスヘッドホンはステレオ規格のキャノン 5Pを
使用せずに、モノラル規格のキャノン 3Pを2個も使用。

近年の機器の小型高性能化に伴い、3.5ミリのステレオプラグ・ジャックの
手軽さを保持した新たなバランス式ステレオプラグ・ジャックを
考えるべき時かも。

単なる感想でごめんなさい。

No title

こんにちは。
こういう細かい事については、なかなか気にされることもなく、気になっても実際に測定して確認することなんて、あまりないんですよね。
私もずっとそうでした。今回、いい機会だったのでデータを取ってみることにしたのです。

単頭プラグなんて、もう何十年も昔の時代の規格であって、当時はヘッドホンもアンプも性能が良くなかったので、こんなプラグで十分だったかもしれませんが、機器の性能が抜群に良くなった現代では、そろそろ新しい方法を考えないといけないのだと感じています。

差し当たり私は、ミニXLRの4pinを使ってみようと思っています。値段は高いし細かくてはんだづけも大変そうですが…。

No title

はじめまして、こんにちは
これはいい実験ですね。私はCLIFFに似たNEUTRIKの物を使っていましたが、今度MJ-187LP使ってみたいと思います。

逆相クロスの話ではありませんが、ハイインピーダンス部分はL-R間の浮遊容量も結構効いてきますね。

No title

こんにちは。NEUTRIKの露出しているタイプは、CLIFFよりバネが弱そうな感じでしたっけ? SWITCH CRAFTあたりにも似たタイプがあった覚えがありますが、それもバネが弱かった印象です。ガリが出て曲げ直したり…。

確かに、ハイインピーダンス受けで、ハイインピーダンス出し、要するにギター絡みの場合は容量分も影響出てきそうですね。

No title

すみません。もしかしたらNEUTRIKじゃないかもしれません。
結構前に千石で買った金メッキの物です。今のところ調子は悪くないです。
言われてみれば、バネ弱そうな気が

ハイインピーダンスの話ですが、昔適当に作った自作HPAで二連ボリュームを音量半分にセットしたときにクロストークが右肩上がりになったことがありました。原因は私の設計の悪さでしたが…
あと出力抵抗のあるラインアウトをステレオミニで引き回したときにも出た覚えがあります。

No title

 ご回答、ありがとうございます。ミニキャノンは知りませんでした。
ミニXLRで検索してみましたが、ミニの4ピンや5ピンも販売されていますね。
世の中はすでにバランス化が進んでいて、私は取り残されていました。

3年程前に手持ちのヘッドホンをバランス化しようと思いコードや
キャノンの5ピンのコネクターを入手しましたが、やはりキャノンは
大き過ぎると感じて断念していました。
キャノン・コネクターの一式は部品箱のゴミになるような気がします。

No title

エリーさま

金メッキのコネクタは私も見た覚えがあるのですが、どこのメーカーだったか思いだせません。
この間、千石電商で見かけたNEUTRIKのは金メッキではなかったです。

ハイインピーダンスの時のクロストークは容量結合していることが多いでしょうね。多分それはケーブルによるものではないでしょうか?
ポータブルプレーヤのdockケーブルで2芯マイクケーブルを使う例がよくありますが、本当はアレはダメなんですよね。iPodのdock出力はインピーダンス200Ωくらいあるし、そもそものクロストークが悪いのに…。
やはり、そのあたりをきちんと配慮して製作しつつ、測定して確認しておくことが大事です。

No title

前の初心者さま

しかしバランス化も一長一短で、私が試した時は理屈では良くなっているはずが、聴感では受け入れられない音だったりして、バランスはバランスで新たな設計ノウハウの必要性を感じました。

おっしゃるとおり、普通のXLRコネクタですと大きくて邪魔になってしまいます。バランスで使う場合はもちろん、変換ケーブルを使う際にはもっと邪魔になります。

世の中ではまだバランスコネクタに関して統一がなされなくて各社バラバラのようです。
そこでとりあえずうちではミニXLRを使ってみることにしました。

キャノンコネクタ自体はトラブルも少なく良いコネクタですから、何かのときに使ってみましょう。電源とか。

No title

 fixer 様
ご指導ありがとうございます。
バランス化は課題として、今は宿題を優先します。
宿題は2年以上前に試作した球のシングル・アンプの本製作です。
試作後からAKI-DACや雑誌の付録の改造に専念して放置していました。

No title

グランドラインにトランス組み込んで左右切り離してできるんでしょうかな

No title

トランスを入れた場合なのですが、トランスより先についてはGNDが分離できますが、(要するにバランスヘッドホンアンプにする)プレーヤ側については共通インピーダンスについては変わりませんので、この場合は有効ではありません。

GNDの共通インピーダンスによるクロストークは負荷が重いほど顕著になりますから、無負荷より100Ω、100Ωより10Ωとインピーダンスが下がるほどクロストークは増えます。ヘッドホン出力をラインとして受けた場合はクロストークの問題がなくても、イヤホンで問題となるのはこのためです。


元の出力レベルが十分に多い場合、例えば1kΩ:10Ωのトランスを入れてあげることでプレーヤから見た負荷のインピーダンスを上げてやることで、ジャックの問題を軽減することは可能でしょう。

しかし、ジャック自体を改善するのが先決です。
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