
ポータブルプレーヤーの擬似バランス化

先日の記事で、ステレオプラグ・ジャックを用いたヘッドホン端子ではGNDの共通インピーダンスによって逆相のクロストークが発生することを確認しました。
逆相クロストークが発生した場合、音としては音がふわふわとして、センター定位のキックドラム等の音がはっきり出ないといった特徴が感じられます。
まあ、普通にイヤホンやヘッドホンを使っていると逆相クロストークが発生している音しか聴いていないということになりますので、一度正しい音を聴いてみると違いがわかるようになります。
逆相クロストークの問題が発生しやすいのはヘッドホンやアンプのインピーダンスが低い場合であり、近年のヘッドホンアンプはほぼ0Ω出しが主流、イヤホンも10Ωのものが存在するほど低インピーダンス化が進んできています。
φ3.5mmやφ6.3mmのステレオプラグがヘッドホン用に使われ出したのは、もう大昔の話。機器の高性能化にあわせて
そろそろプラグの規格を改めたいところではありますが、一筋縄にはいかないようです。
なお、根本的この問題を回避するためにはヘッドホンをバランス接続にすることが最良ですが、バランス接続に対応したDAPやヘッドホンアンプは数が少なくあまり選択肢がありません。
そこで、今回は従来のシングルエンド(アンバランス)接続のポータブルプレーヤでもジャックの接触抵抗で発生する共通インピーダンスを回避してステレオセパレーションの高いヘッドホン出力を得る方法を考え出しました。
原理は以下となります

オーディオプレーヤーの中には、ヘッドホン端子に隣接してライン出力端子が装備されているものがあります。
共通インピーダンスの問題は、ヘッドホンの左右chのGNDラインがまとめてジャックを通ることが問題であるため、この隣接されたライン端子のGNDピンだけを利用し、LchのGNDはヘッドホン端子、RchのGNDはライン端子といったように分けて接続してやることで、ジャックの接触抵抗による共通インピーダンスを排除しようというものです。
これは、3線ヘッドホンケーブルの4線化と同じ原理であり、4線化をプラグに対しても適用し、基板の部分まで拡張したと考えると判りやすいでしょう。
ただし、どんなプレーヤーでもこの方法が使えるとは限りません。構造上、2つのジャックが隣接して配置されていること、GNDが基板上で同じ箇所に接続されていることが重要です。
これを確認するためには、あらかじめ配線のされていないプラグを2つ挿し、テスターの道通チェック機能で2つのGND間がほぼ0Ωを示すことを確認する必要があります。できるなら基板を目視でチェックするのが一番です。
今回使用したAstell&Kern AK120はライン出力端子ではなく光入力端子となりますが、φ3.5mmジャックのGNDが結線されているので使うことができます。また、iBasso DX90もこの方法が使えるようです。
この方法を試すためには、まずヘッドホンのプラグを4線式のバランス型に変更する必要があります。バランスヘッドホンに用いられるコネクタは統一化されていませんので、4極のミニプラグや、こちらの作例のようにミニXLRの4pinタイプなど、各自の使い勝手に合うものを用意してください。
ミニXLRのピン配列は1:L+ 2:L- 3:R+ 4:R-としました。
プラグ内部

このような感じでL+ L- R+の3本はヘッドホンジャック側のプラグへ結線、R-については分岐させてライン端子側のプラグに結線します。ライン端子側はGND部分にのみ接続し、他は未接続です。
※ここで用いたREANのステレオプラグは品質に問題があり、ジャックに挿そうとすると引っかかってしまい使うことが出来ませんでしたので、後に変更されました。よって他のプラグを用いましょう。
改造前後の特性比較
改造前後でクロストーク値がどれだけ変化したかを測定器で確認してみました。
負荷は10Ω、1kHzのサイン波をLchのみに出力し、Rchにどれだけ漏洩するかを測定しました。
■改造前

通常の状態でもクロストークは約-70dBと、決して悪くはない値となっています。しかしプラグに触れて接触状態が変わると悪化したり不安定になることもありました。シングルエンド接続の限界だとみられます。
ちなみに、無負荷の状態ですとクロストークはバンドパスフィルタで信号周波数のみを抽出しても-120dB以下と、非常に優秀な値となっておりました。
■改造後

安定して-80dBの値を得ることができるようになりました。もう少し下げたい気持ちもありますが、あとは基板の配線パターンや回路自体に依存しており簡単にはいきません。
しかしながら音としては、センター定位の低音がしっかりと押し出してくるようになり、小音量でも低位のフワフワ感が出ないといった違いを感じ取ることができました。
本体に手を加えることなく、簡単に改善効果が得られますので、是非一度試して、逆相クロストーク改善の効果を実感してみてください。
※擬似バランスの呼称について
擬似バランスという呼称は、もともと業務用オーディオ機器において使用されているものです。アンバランス出力をバランスの機材で受ける場合、RCAプラグなどの内部でColdの線をGNDに繋ぐのが一般的ですが、その際に機器の出力インピーダンスと同じ値の抵抗値を入れてGNDに接続することで、バランス接続と同様に、伝送路上で飛び込んだノイズを除去することができます。その際、RCAプラグ内でGNDに接続するのではなく、機器内部の出力回路の基準となっている部分のGNDに接続することで、より質の高い信号を得ることが可能となります。
これをイヤホンに応用したものが、イヤホンの擬似バランス接続です。
業務用オーディオの場合、この手法を「インピーダンスバランス」と呼ぶこともありますが、イヤホンの場合は外来ノイズ除去を目的としないためインピーダンスは関係せず、GNDを分離して接続しクロストークを排除することが目的のため、擬似バランスという呼称を用いることにしました。

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