
最小構成のバランスヘッドホンアンプを作る

3極のステレオプラグを用いたイヤホン、ヘッドホンの接続では原理上、逆相のクロストークの発生から免れないことがわかりました。
いままでの測定結果より、近年の低インピーダンス化、そして高性能化したイヤホンから、左右の信号が干渉しない正しい信号を出すためにはバランス化することが必須であるといえるでしょう。
そこで、最小限の出費と工作で、クロストークの少ないバランス駆動の音を手軽に楽しめるように、オペアンプを使ったポータブルアンプを自作してみることにします。
「ポータブルプレーヤのヘッドホン端子の出力に、ポータブルアンプを接続したところで信号が劣化するだけで、良くなることは無いのでは?」という疑問がありますが、ステレオクロストーク(チャンネルセパレーション)についてはバランス化によって明らかな性能の向上が得られることがわかりました。
ジャックの共通インピーダンスによるGNDのクロストークは、負荷のインピーダンスが低いほど顕著になります。よって、プレーヤの出力を一旦、ハイインピーダンスの入力で受けてやり、出力をバランス化することで20dB以上のクロストーク改善が見込まれます。

この点に主眼をおいて、極力部品点数の少ないバランスヘッドホンアンプ回路を検討します。
■回路図
常に試作を繰り返しながら反映させていますが、現段階での回路図はこうなっています。

(画像クリックで拡大)
■更新情報
2014.7.5
すべての抵抗値は4.7kで良さそうです。
全体の抵抗値が高いほどセパレーション向上に対して有益ですが、インピーダンスが高くなるため外部からのノイズを拾いやすくなります。10kΩでは基板を裸で使用した場合、環境によってノイズを拾いやすいため、4.7kΩであってもセパレーションが確保できそうなのでこの値を選定しました。
■回路図最新版

■主なパーツ
4回路入オーディオ用HiFiオペアンプ LME49740NA
丸ピンICソケット (14P)
金属皮膜抵抗 1/4W4.7kΩ (100本入)
アルミ電解コンデンサ100μF16V
積層セラミックコンデンサー0.1μF50V
ポリスイッチ50mA(100mAで遮断)
バッテリースナップ(電池スナップ・Bスナップ)
006P形アルカリ電池(6F22)9V
片面ガラス・ユニバーサル基板 Cタイプ(ユニバーサル基板で製作する場合)
その他 配線材、プラグ、ジャック類
フェライトビーズは入手しづらいパーツのため、丹青通商や共立、もしくはこれにスズメッキ線(抵抗の足の切れ端)を通すか、そもそもMHzオーダの発振に対するおまじない程度の対策なので省略(スズメッキ線によるジャンパー接続)でも可。ケース内の出力側の配線が長い場合や、イヤホンを接続せず延長ケーブルだけ接続したような状態は発振(異常動作)を起こしやすいので注意すること。
■試作品1

これが最初の試作品です。回路は基本的に変わりませんが、2回路入りオペアンプを用いていることと、周辺の抵抗値が10kΩとなっています。
細かいことはさておき、これでも十分にバランス駆動による効果を感じ取ることができ、はっきりした音が得られます。
しかしながら、測定上でのクロストークが-80dBに満たないことから、もう少し回路を検討することにしました。
問題点としては、負荷が重くなった時にクロストークが悪化する点について調べていったところ、おそらく2回路入りのオペアンプを正側負側と分けたため、左右の信号で共用していることで、オペアンプ内部で干渉していることが疑われました。これは当初より懸念していたものですが、基板パターンの引き回しの都合上このようになりました。
また、正負ともゲイン0dBで組んではいるものの、差動出力になることで全体のゲインは+6dBとなっています。これによりポータブルプレーヤのボリュームを6dB下げて使用することになり、残留ノイズが目立ってしまう問題がありました。
■試作品2

試作品1で起こった問題を改善すべく製作した2台目です。まずはクロストーク対策のため、2回路入りオペアンプの使用を止め、4回路入りとしました。本来は完全に左右chを分離してデュアルモノ化するのが積極的なクロストーク対策となりますが、回路の規模が大きくなるため、逆の発想で左右chの正負すべてを1パッケージのオペアンプに収めることで、各信号同士が打ち消し合って干渉を低減できることを期待してのものです。
これに加え、ゲイン対策として回路図上のR2、R8を追加してトータルで0dBになるように変更しました。
また、帰還まわりの抵抗値はクロストーク改善のためにはなるべく大きな値のほうが有利ということで47kΩを採用しました。しかしこれは結果的に外来ノイズを拾いやすくなるため、次回は20kΩまで下げることを検討しています。
■基板パターン

とても簡単な回路ですが、予想以上にバランス駆動のメリットが感じられ、音としても聴けるものだと感じたので、ひきつづきプリント基板を起こしつつ、さらに回路定数の吟味をしていきたいと思います。
※2014.7.1 追記
いままでは手持ちの4回路オペアンプOPA4277を用いて実験していましたが、LME49740を入手したのでこちらで試作を進めることにしました。
差し当たり、抵抗値47kΩでは残留ノイズが気になったため、思いきって10kΩに変更しました。仮想GNDを分圧する抵抗についても1kΩより上げても問題なさそうなため、こちらも10kΩにしました。電解コンデンサの値が100μFですので、時定数が下がって低域成分による揺れが低減できました。基本的に電流が流れる箇所ではありませんが、電源電圧の変動の影響を受けていたようでした。
結果、クロストークは10Ω負荷時でも-110dB、THDも100mVrms程度であれば良好で、クリップが生じるのは800mVp-pほど。これは10Ωイヤホン(ATH-IM50)使用時でPOPSなら音が大きすぎて聴けない程でしたので音量的にも十分と判断しました。残留ノイズはAウエイティングで4μV程度、DCオフセットも0.5mV程度なので大丈夫でしょう。


音としては、バランス駆動ならではのガッツリとした音が楽しめるようになりました。
あとはプリント基板が出来上がったら最終チェックする予定です。
※2014.7.5追記
プリント基板が完成しました。必要があれば頒布できるようにします。



抵抗4.7kΩ版でも、セパレーションは100dBが確保できていました。(負荷10Ω AK120使用)

AK120では直刺しで無負荷時であれば100dB以上のセパレーションを達成しつつも、10Ω負荷時では70dB程度まで悪化していました。このアンプで約10kΩで受けることによってジャックの共通インピーダンスによるクロストークを排除し、DAPの本来の性能を活かしたイヤホン出力をすることが出来るようになりました。
※測定結果追記 2014.7.12





2014.7.14 名前が決まりました!

「僕はクロストークが少ない」
※ついに電子工作キットとして秋葉原の店頭で委託販売を開始しました。詳細はこちらから。
(2014.9.6現在)
※製作で使用した基板をこちらで頒布しています。送料込みで1枚450円です。(2014.7現在)
http://nabik.web.fc2.com/teikyou.html
なお製作にあたっては不具合、故障などリスクがあることを承知の上、各自の責任でおこなってください。
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